Site Loader

マネーフォワードケッサイ株式会社 取締役会長 家田明

企業が事業を運営していくなかで、そのための資金が必要となる。この資金は必要運転資金、あるいは単に運転資金と呼称されている。

中小企業の資金調達先として真っ先に念頭に浮かぶのは金融機関である。そこで、中小企業にとっての必要運転資金は、金融機関からの借入でどの程度まかなわれているのかをマクロ的な計数で確認する。

ここでは、中小企業庁が公表している「中小企業実態基本調査」の令和元年確報(平成30年度決算実績)を用いる。この統計はサンプル調査に基づくものであり、すべての中小企業を網羅しているわけではないが、全体の傾向をみるには十分なものである。

必要運転資金を「受取手形・売掛金+棚卸資産-支払手形・買掛金」とすると、中小企業(法人企業)にとって、必要運転資金は約52兆円、金融機関からの短期借入金は約33兆円となる。つまり、中小企業は必要運転資金の6割ほどしか金融機関からの短期借入金でまかなえていないことになる。

わが国の企業セクターにおける資金需要がかつてに比べて乏しい現在の状況で、金融機関にとっては中小企業の必要運転資金需要にさらなる融資によって応えていける余地が十分にあるとも考えられるが、マクロ計数をみる限りそうはなっていない。その背景には、金融機関側と中小企業側それぞれに事情がある。

まず金融機関側の事情について説明する。中小企業は事業規模が小さく、担保となる優良資産を潤沢に持っているわけではないことから、融資枠は大きくはなりにくい。また、中小企業の場合、借入の希望金額が少な目であるため、金融機関の事務コストを上回る収益を得づらいことから、金融機関としては融資に及び腰になる。このため、金融機関は一定以上の事業規模を有する企業を融資の対象とすることが多い。

次に中小企業側の事情を説明する。中小企業の場合、業容が小さいため資金繰りの専門知識を有する部署や担当者を配置しているケースはほとんどなく、経営者等が本業の傍らで資金繰りを回しているのが実態である。そうすると、金融機関からの借入のための決算書や各種証明書といった資料準備や説明・交渉に十分な時間を割ける余裕に乏しいことになる。複数の金融機関からの借入を試みようとすると、その手間暇はその分増大する。このため、中小企業にとっては、金融機関からの借入のハードルは相当高くなっている。

そうすると、中小企業が必要運転資金を調達しようとするときの、金融機関からの借入以外の手段は何かということなる。

この点では、株式会社マネーフォワードがマネーフォワードクラウド会計ユーザーに対して実施したアンケート(2015年12月)がある。少し前のものであるが、中小企業を巡る資金調達環境はこの間に大きく変貌しているわけではないと考えられることから、このアンケートの結果は現時点の状況に近いとみなせる。

アンケートでは、「1千万円以下/返済3ケ月以内の運転資金が必要な際の、現状の借入先は?」という問いがある。この問いに対するユーザーの回答を集計したところ、銀行が39%と最も多いが、次は社長・従業員個人+親族・友人が34%となった。

つまり、中小企業は、金融機関(銀行)以外では、関係する個人から資金を調達していることになる。しかし、個人からの資金調達は、マクロ的な経済ショックが発生したケースを考えると、安定的な資金調達手段であるとはいえないであろう。これは、たとえば、知人等が経済ショックの煽りを受けて当該中小企業への資金提供ができなくなることも十分にあり得るためである。

このようにみてくると、わが国の中小企業の資金調達における課題として、金融機関からの借入以外の調達手段を確保すること、つまり調達手段の多様化があげられることになる。